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★ ジュニア選手の育成・指導法を現在1~13話にて下に収録しています。他のスキー指導者の皆さんとより良い指導法を考えるペ-ジとしてお役に立てればと思います。

パルダスレーシングチーム 代表 佐藤 徳造

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第1話 学ぶべきポールセット

① 学ぶべきポールセット

No_01.png日本のジュニアは、なぜ世界で通用しないのか!
日本でのポールのセッティングはどちらかというと楽なのです。その楽なセッテイングで勝ってきた選手ですから、むずかしいセッティングの世界には通用しないのです。

現場に行ったコーチ以外は、世界のセッテイングの現況を知らな過ぎると思います。
ジュニアの段階で教えているコーチは、その現況を知っておかないと、日本では通用するけれども、世界には通用しない選手を育ててしまうことになりますね。そのためには、全日本トップクラスの最新のセッテイングを雑誌かなにかで紹介するとジュニアのコーチも選手もわかると思うのです。
いま、うちの選手たちにその最新のセッテイング図を見せると、「先生、これじゃ、入れない」というのです。
「すごいセットだな」「これじゃ、ダメだ」と子どもはいいます。しかし、そのセッティングが本当に子どもたちにむずかしいかというと、そうではないのです。それだけの技術を子どもたちに教えていないから入れないのです。大きくまわしてくるターンなどは、いまの中学レベルでは教えてもらっていないのです。だから、日本のセッティングには通用するけど世界には通用しないということになるのです。
日本の現状をいうと、中学レベルの場合、基本的に選手を勝たせなくてはならない事情があります。
そうすると、あまりむずかしいセッティングにすると子どもたちにはむりなのです。そこでセッテイングをやさしくして、それをこなせる技術だけを教えるということになるのです。
やはり世界に行かせる選手には、むずかしいセッティングを練習させなくてはだめだし、それにはそれだけの技術に耐えられる身体・筋肉をつくらなければならないということです。

●やはり、基本は体力づくり。

ジュニアのトップクラスの選手たちは実際いい技術を持っています。だから勝てるのです。勝ってきているのに、コーチがお前のスキーはこのところをこうやらなければだめだとかゴチャゴチャいって、いじくってしまう。選手たちはトレーニングを積み重ねて一応完成して勝ってくる。ところが、コーチにいわれて今までやってきたものがまた一から出直しになる。しかし、コーチの役目というのはそういうものではないのです。

コーチは、現状のその選手の力にもっとみがきをかけて伸ばすことが役目だと思います。それで伸びなければ、また、それで勝てなければ、その選手にはそれ以上の器がないのです。だから、選手というのは全員が強くなる、うまくなるわけではないのです。世界のトップをいく選手というのは一つは努力、もう一つは持って生まれた素質があるのです。持って生まれたものというのは、その子のスキーに対するセンスとか、身体的条件とか、そのほかスキーに必要な要素のことです。
同じ年代の子どもたちを教えていて、この子はどのくらいのレベルにいくかということはもう小さいときにわかるのです。
努力すればこのくらいのレベルまではいけるが、それ以上のレベルにいくには努力以外に持って生まれたものが備わっていないと、トップレベルに到達することはできないですね。

●重要な環境づくり

トップレベルになれる条件とはまず環境ですね。
環境づくり、トレーニングをするのにいちばんいい条件を備えている場所を選手たちに提供することです。
たとえば、朝から晩までトレーニングが続けられてある程度硬いバーンで、ヨーロッバに似た条件で、環境づくりをするということです。ヨーロッバの雪というのは、非常に湿度が少なくて、雪がパウダーといっていいくらいですね。日本の雪は湿度があって結晶板が大きいですから、25-30パーセントは湿度が違うのじゃないかな。だから、ターンのとき、日本の場合はポ-ルの上でエッジを効かすと、比重でエッジがかかってスキーがまわってくれる。湿度が大きいから、雪がスキ-を噛むのですね。極端なことをいえば、水分があるから雪が重いということです。
ところが、ヨーロッパの場合、雪がパウダーですから、ポールの上でターンしようとしても、サァーツと流されてしまうのです。子どもたちをヨーローッパに連れていって3週間ほど滞在していると、最初の1週間というものは、日本のべ-スで入ると、みんな流されてしまいます。しかし、10日目くらいになると、子どもたちは雪質になれて、きちんとポールの上の方からタ-ンすることができるようになるのです。したがって、そういう環境を日本で与えることができれば、子どもというものはうまく順応して、雪に乗ってきます。
コーチが、ああでもない、こうでもないと口うるさくいったところで仕方がないのです。指導を見ているといつもそんなことばかりいっているコーチがいます。これでは、子どもたちをダメにするだけです。やはり、子どもというのは、一をいって、また次に二をいって、三をいうという指導方法ではわからないのだと思いますね。
私はコーチたちを集めると、「指導する前に裏方に徹しろ」というのです。自分のスキーの腕前を見せる前に、コースをならすことから始めなければだめだというのです。
そうしないと、子どもたちに自分のスキーのイメージを教えてしまうのです。白分のやってきた「過去のこと」ですね。でも、子どもたちには「過去」は必要ないのです。新しいものに持っていかなければだめだということです。
具体的には子どもたちには、やはり欠点がありますから、そこを直すことから始めます。
たとえば、外スキ-にしっかり乗っていけ!とよくいうのですが、外スキーにしっかり乗れないというのはほとんど腰が落ちているとか、腰が浮いているとかという状態です。その原因はなにか必ずあるはずです。その原因を子どもたちにきちんと教え、直していかなければなりません。そこで、「外スキーに乗れ」といっても、子どもたちにはわからないのです。そうではなく、身体が折れている子どもがいるとすれば、ふつうは「もっと身体を伸ばせ」と教えているはずです。しかし、私は「もっと遠くを見なさい」と教えます。そうすると、その子は遠くを見て滑っているうちに、ちゃんと上体が起きてくるのです。
このように一つのことを教えるにしても、子どもたちに理解できるように別の表現に変えることが大事ですね。私は、このように悪いところを指摘するのではなく、悪いところをどうやって、子どもたちにわかるように直すのかという方針でやってきたのです。

●年齢に適した練習を

身体的条件を整えるには、
たとえばストックワークがへたな子がいるとしますね。見ていると、その選手(高校生)は首と肩のまわりの筋肉が弱いから、通常のストックワークをやらせようとしてもできないのです。ストックをパーンと突き放す場合でも、手首の力が弱い選手はそれができないのですね。
そうすると、この選手はまずその操作のところを抜かして、力が強くなるまで教えるのを待ってやる。それが待てないのなら、毎日ダンベルで筋力をつけることをすすめます。そして、なにもスキーを滑ることだけがトレーニングではないよといい筋カトレーニングもスキーのトレーニングになると教えると、その選手も納得するのです。
こうして、一つずつ身体の部分を強化していくのもスキーのトレーニングなのです。いまは費用がかかることを覚悟すればいろいろなジムとか、トレーニングセンタ-などがありますが、私はもっと自然にとけこんだトレーニングを教えたいし、子どもたちにさせるべきではないかと思うのです。
たとえば、いまではみんな水泳のトレーニングをとり入れていますね。あの野球の選手でも…。私も、水泳をトレーニングの一つにとり入れていました。しかし、当時はよくいわれました。「なんで、スキ-のトレーニングに水泳が必要なんだ。水泳が身体にいいわけない。」と、それも体育指導者にです。
私の住んでいる町は、とても小学生の間で野球がさかんなところで野球をやっている子にプールに入れといっても、「野球のコーチが、プールに入ると肩を冷やすからだめだといった」といって、どうしてもプールに入らないのです。「じゃあ、好きにしろ」とそのまま放っておきましたが、それに対してはひどく反対されたものでした。また、日本の場合、精神的な意味のトレーニングを押しっけしすぎていると思うのです。練習中に水をのんではだめだとかね。ボクは夏合宿のときにはヤカンに水を入れて、子どもたちにのませていましたよ。ガバガバとは飲ませませんでしたが、適当に水分を補給させていました。いまでこそ、あたり前ですが、当時はこんなことでも大変だったのです。
子どもはあくまで子どもですから。大人のミニチュアではないのです。
だから、大人と同じような内容、量では、子どもたちはついていけないのです。子どもというのは、その子のレベルにあったトレーニングをさせないと、大きくなったときに身体に欠陥が出ますね。

ひざが痛いとか、腰が痛いとか、大きくなったときに故障が出るのです。ジュニアのコーチのなかにも、身体を鍛える、筋力を鍛えるといったトレーニングをさせているコーチがいます。雪上トレーニングの場合、子どもたちに合ったものならいいと思いますが、夏の陸上トレーニングの場合は、大人と同じような筋カトレーニングとか、精神的ランニングとかは、子どもには必要ないと思います。
今は、いろいろなトレーニングの本が出ていますから、それを参考にして、それぞれの年齢に遭したトレーニングを行なわせるべきだと思います。そして、その一人一人の子どもの状態を見て、その不足している部分を補うトレーニングを指導すれば良いと思うわけです。
もう一つ、たとえばジュニアの選手が10人いるとします。その10人のなかで、伸びる選手は1人いるか、いないかということです。10人が10人、全員伸びるわけではないのです。たとえば、岡部哲也選手みたいになれる子どもは、いまの現状では10年に1人いるかいないかといったところです。岡部選手を追いかける選手が10年に1人ではなく、毎年出て欲しいし、それがわれわれジュニアのコーチの務めだと思います。

●長期的な管理指導

まず小さいころから身体を管理していかなければなりません。
私は1人の選手を育てるのは10年サイクルが必要だと考えて指導しています。10年というのは、小学3,4年生から高校生までの間です。
この高校まで見ればその選手が上のレベルにいけるのか、見極めがつくと思います。北海道は、中学生まではほとんどレーシングチームで指導していますが、高校生になるとスキー部がありますから学校のことには口を出さないで高校の先生にお任せしています。したがって、私が教えるのはノートをとらせることと、合宿や、トレーニングがないときに私のところに来て、彼らが持っている疑問点、悩みを聞くというようにしています。
高校の先生も私が教えてきていることを知っていますから、大会などに行くとアドバイスを求めてきます。小さいころからその選手を知っていますから、その子の性格や滑りなどがわかっていますので、その子が育つように考えて先生にアドバイスするのです。
これだけ、物が豊かになり情報があふれるほど入ってくる時代に、しっかリした考えで子どもを見続けていくのは大変なことなのです。親たちも10数年間子どもを育ててきているのですから、どこのレーシングチームまたはコーチについたら、自分の子どもが将来しっかりと成長するのかを、よく見極めてチームを選んでおかないといけないです。
レーシングチームの普及度は北海道の場合ですが、ほとんどの市町村がレーシングチームを持っていると思います。
様々なレーシングチームやスキー少年団があり、いい選手が育っています。指導しているのは、学校の先生や、公務員関係の方々、そうでないと指導にあたる時間が割けないのです。私は、そういう人たちに情報を提供し、さらによりよい指導法を教えていきたいと思っています。
私も26歳から30年間コーチをしてきましたが、これまでは自分の選手を強くしたいと思い、それに固持し、それなりにいい選手を育ててきたと自負しています。でも、これからはこのページを使って私が持っているものと、30年間の経験を生かしてほかのスキーの指導者たちにアドバイスをしていきたいと思います。

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第2話 レーシングチームの置かれている現状について

② レーシングチームの置かれている現状について

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日本では、現在小学生から出場できる大会がたくさんあります。そうなると、親は必然的に白分の子に勝ってもらいたいと考えます。コ-チは基本を教えてやりたいのですが、どうしてもポールをくぐって速く滑るということが主になってしまう。
コ-チは板ばさみになっていると思います。以前は、大会の数は少なかったのですが、いまは毎日曜といっていいほど、各地で大会が開かれています。子どもたちは大全に出るためのトレーニングしかしていません。将来のための基礎トレーニングを指導しているところは少ないのではないかと思います。

●中学生ぐらいまでが、実力を見極める一つのメド。

全国中学大会の優勝者は、ほとんどが北海道の選手でそれがそのまま道内の高校に進むという現状があります。でも、中学で伸びなくても決して焦ることはないと思います。男子で吉田啓律(日体大)という選手がいましたが、彼は中学のときはそれほど目立たなく、高校に入った後、2年間で急に伸びたのです。よい指導法を受けたら日本を背負う選手にもなれると思いますね。だから全国大全で勝った負けたいうことよりも、中学まではしっかりしたものを身につけ、自分はスキーを続けていくのだという信念を植えつけることが先決問題ではないでしようか。
しかし、いまの現状ですと、全国大会で優秀な成績をおさめると強化指定に選ばれ、そしてそれにより非常に有利な面がでてきます。たとえば全日本A級大会の出場資格がなくても参加資格がつきますし、そしてメ一カーさんも用具を提供してくれる、ということで親の金銭的負担が少なくなるということです。
私も今ジュニアの選手をたくさん抱えていますが、その全員のトレ-ニングを見ることはむずかしいですね。それに、白分の個人負担で選手たちをヨーロッパに毎年連れていくことなんかとても不可能です。何年かに1度、白分の本業を休んで、3,4人の選手を連れていくのが精一杯……。毎年行っていたら、生活できないですからね。
ところが、ナショナルチームに入ると全日本が連れていってくれますから色々なことを気にせず選手もたくさん練習することができるし、ヨーロッパの大会にも出場できる。そうすると、自然に中学・高校・大学のトップレベルの顔触れがずっと同じという流れができるのです。これでは、中学のときに素質に恵まれながら荒削りで失敗ばかりしている子どもは、よほどの信念を持っていないと、スキーを続けていく情熱がなくなりますね。
今の子どもは、親が一つのスポーツではなく、何でもやらせたいということにこだわるのでスキーをやっている子が夏はサッカーや、ソフトボールなどをやっているのも別に珍しくありません。その上、たとえば、スキーを主体にやっているけどサッカーで有望ならそのままサッカーを続けさせて、大会に出させるといった傾向が強いのです。うちのチームにもソフトボールがうまい選手がいて、スキーの合宿があるからこちらへこいといっても、ソフトの大会があるからと言って参加してこないのです。だから、大きくなったら、自分がなにをやっていくのかをしっかり決めておかなければ駆目だと思います。ソフトボールを本気でやるなら、それはそれでいいがソフトボールをなんのためにやっていくのかという信念を持たせなくてはならない。ソフトボールは確かにうまいけれども、自分は絶対スキーをやるとわがままをいって親に断わる子どもがいなのいです。

●非常に大切な幼小期の食生活

整形外科の先生に聞いた語なのですが、赤ちゃんのときに、よくハイハイする子は肩の筋肉が強いというのです。
肩の筋肉、首の筋肉ができてしっかりしてくるうちに、お尻の筋肉ができて、足で立つのです。だから、赤ちゃんはむりに立たせるのではなく、白然にハイハイという過程を経て立たせるほうがいいというのです。
興味をおぼえて、選手の親たちに質間してみたところ、いい選手はやはり赤ちゃんのころよくハイハイをしていたそうです。それから、もう一つの特長は食べ物の好き嫌いがないということです。2、3歳から5歳までになんでも食べていた子は丈夫ですね。故障がありません。故障がない選手は、必ず将来伸びます。食事の内容に気をつけるのは、小学3,4年生からでも遅くはないと思うかもしれないけれど、どこか身体には故障が出てきますね。
合宿に入るとわかりますが、好き嫌いのない子は出される食事はぜんぶ食べてしまいます。好き嫌いのある子は力がなく身体が細いですね。ごはんをたべてもおかずはぜんぜん手をつけない。そのくせ、どんぶりものは好きですね。カレーライスだとか、牛井などというのは喜んで食べている。だから、家では手間はかかるけど、お母さんが手づくりのおかずをつくって子どもたちに与えて欲しいと思います。
小さいときから、スポーツ選手に育てる気はなくても、5歳までのうちに、なんでも食べる習慣をつけさせて欲しいのです。やはり、子どもの嫌いなものはあると思いますが、それは料理の工夫で、なんとか食べさせる努力が欲しいです。いまは物が豊かなのでとてもむずかしいことだとは思いますが……。好き嫌いがあると、世界に出たとき困るのです。いろいろな国に行って、いろいろな料理が出てくる。これらのものが食べられなくなるのです。そうすると、疲れや、カゼをひいて体調をくずすことになり、これではレースに集中できるわけがありません。

●よりよい環境を与える勤め

そうかと思うと、出たものは食べなさいというとこれはカロリーが高いから、朝からは食べないと答える子もいます。その時は、そうではなく、食べるものを食べて、それを運動で消費するのだと教えるのです。
朝の食事を満足にとらなければ、朝からのトレーニングに身体がもつわけはないです。やはり、小さいときからの食事のパターンがしっかりしていなければならないと思います。小学4,5年生くらいでしたが同じ年齢の子どもとくらべると背の低い子がいました。やはり、好き嫌いが激しい子でした。この子に私は「毎朝牛乳を飲め」といって、実行させたのです。牛乳のせいかどうかわかりませんが、高校生になったとき、グーツと背が伸びたのです。牛乳はカルシウムを含んでいますから背の成長にはいいと思っていましたが、筋肉まですっかりたくましくなりました。
10年子どもを見るというのはこのようにスキーだけではなく、親と子、日常生活、食生活と、すべての面を含めているのです。私は、子どもたちにいい環境を与えるというのが務めだと思っています。スキーを教えることは教えますが、極端な話、それは1週間に1度くらいでもいいと思っています。
それよりもいい環境で、いい滑りをさせることに努力したいと考えています。それにはスキー場、そしてホテルの協力がなければ不可能です。子どもたちもそうですが、指導者にも信念がなければだめです。それがなければ、子どもたちがついてきません。
とにかく、20人、30人が全員うまくなるわけはないですから、コーチがある程度伸びる子を決めて進ませるのも大事なことです。トレーニングは同じ内容でも、その子たちをやや高いレベルに仕向けて育てるということが大切になってきます。

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第3話 小学1年生から3年生まで

③ 小学1年生から3年生まで

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小学校の低学年、1年生から3年生までの頃は技術的なこととしては、まず直滑降をきちんと党えさせなくてはなりません。
曲げる技術はそれほど教える必要はないと思います。とくに3年生くらいまでの頃は、それほど体力もないしスキーそのものもよくわかっていないからです。

私が教えているスキースクールでは幼児クラスの教室(3歳くらいの子どもから)があるのですが、この子たちを見ているとそれがよくわかります。ところが、親たちは曲げる技術のコーチをすぐ求めたがる傾向があります。しかし、ここが一番大事なことなのですが、小学校低学年くらいの時まっすぐに滑ることを覚えた子どもというのは、とにかくまっすぐ、まっすぐと滑るのです。そして、ある程度年齢が上がってから曲げる技術を教えたとき、小さいころから曲げる技術を知っている子どもに比べ、ずば抜けて上達が早かったことがわかります。

それはその子どもが持っているスピード感とか、恐怖感とかという差が出るのではないかと思います。だから、小学3年生くらいまでは、曲げるということよりも、きちっとした直滑降ができていないと中学、高校に進んだときに苦労するのではないかと思うのです。

最初から曲げるという小さなことを考えていると、スキーを走らせるという一番重要なことができなくなるのです。したがって、1年生から3年生までの頃は、まずスキーに両足をきちっと乗せることを数え、練習に使うスキー場の斜面もあまり凸凹がなく、ある程度スピードが出て、しかも下では自然にピタッと止まることができる場所で教えてほしいのです。きちっとした直滑降ですから、「遠くを見て」、上体を自然体にして滑るということを、指導者が教えてあげればいいと思います。ただ、直滑降だけを教えていても、大会では勝つことはできません。ポールで曲がるどころか通過してしまうこともあるからです。しかし本当にスピードに乗れる子どもは5年生くらいになって、曲げる技術を覚えたときに必ず勝てるようになれます。

逆に小さいころから曲げる技術を教えられた子どもは、年齢の低い頃には勝てますが、年齢が上がるにしたがって、どんどん勝てなくなります。小学生をお持ちのお父さんお母さんにぜひお願いしたいのは、「レースに勝ち負けをからませるな」ということです。とにかく勝ち負けは別にして、子どもをほめてやるということを実行していただきたいのです。「なんで、あんなところで失敗した」という批評は、中学、高校に進み、レースに対する駆け引きがわかる年齢に達したときの話です。

小学校低学年の頃は、一生懸命に滑ることだけを考えているのですから、あとからそういった批評を受けても、子どもたちはわからないと思うのです。子どもというのは、非常にコーチや親の顔を見ます。勝ったときに「いい顔」して、負けたときは「怖い顔」になるというのでは、どうしても勝たなければならないと、子どもながら思います。そこで何とか勝とうとすると、どんどん滑りが小さくなってしまうのです。そうすると、レースの中でもまっすぐ行けるところが、まっすぐ行けなくなってしまうのです。

小さい頃に曲げることがうまい子どもというのは、スピードが出てきたらすぐに曲げてしまうのです。私の教え子の中にもいますが、コーチの約半分くらいの人が「この子はいいな。将来伸びるな」といいます。しかし私は「あの子は曲げ上手だから、ダメだ」と答えます。「まあ、高校に進んだくらいまでならいいが、それ以上は無理ではないか」と言うと、驚いた顔をしています。それよりも、荒削りでもいいから、まっすぐ滑ることができる子どもの方が、曲げる技術を覚えたときに進歩が早いのです。

子どもがスピードに強くなるというのは、ある程度環境に左右されます。きちんとした環境で、大きな斜面の十分にスピードに乗れる場所で、スビードトレーニングをしないといけないのです。たとえば、長さが同じでも、横幅が100mの場所と、500mの場所とでは、感覚的にスピード感に大きな差があるのです。狭いスキー場ではスピード感が増し、スピードに対しての恐怖感が生まれてしまいます。ところが広いスキー場では周囲が広いから、同じスピードでも、それほどスピード感を感じないのです。スピード感というのは、自分の眼の視神経をスピードに慣らさなくてはならないのです。コーチも、その辺を押さえて教えなければならないと思います。狭いスキー場でいくらスピードトレーニングをさせても、逆に恐怖感が噌してマイナスになってしまうのです。子どもにもうスキーをやりたくないと感じさせてしまったら、その子は伸びてこないのです。また、スピードは出るが、下で止まれないという斜面も困ります。小学生の頃は、スピードは出ても、下に行けば自然に止まるような場所が理想的です。

たとえば、私のチームのある選手の場合も、天狗山で3年生の頃まではまっすぐだけ滑らせていました。但し本人はいやがっていましたが……。それで4年生のときにポールトレーニングを多少させ曲げる技術を教えたら、いきなり歌志内の大会で優勝しました。当時、子どもたち全員にまっすぐ滑ることを徹底して教えたかったのですが、ほかにもコーチがたくさんいましたし、親の話を聞いたりしなければならない、そうするとやはりある程度の成績を上げさせなければ親が文句をいう。結局、私の主張を通したくてもまず親を説得しなければならなかったのです。
だからコーチと親の信頼関係が、よほど密接でないとジュニアのコーチはやっていけないのです。

●ピラミッド型のコ-チシステム

小学生の場合は、団体でというか、たくさんの子どもが参加しています。将来選手になろうという子もただスキーをしたいだけの子もいます。ここをコーチたちが、どうとらえているのかということも問題です。

ただ、一般のスキースクールの形式で教えるのか、本格的にレーシングを目指して教えるのかということをきちんとした形でコーチが考えていかないと、やはり子どもたちの意識が固まらないと思います。

理想的なのは、そのスクールのなかに、ピラミッド型のコーチシステムがあるといいのです。底辺を教える段階があってその上に上がると次の段階を教え、最後にピラミッドの頂点でさらに上の技術を教えるというようにです。ただ、日本の現状としては、厳しい事情があります。しかし、たとえ実現しなくてもコーチたちがそういうはっきりした意識を持たないと、子どもたちはどっちに進んでいいのかわからなくなります。そこで、また「親」という間題が出てくるのです。
親を説得するというのが犬変なことなのです。親がコーチを信頼して長い目でコーチの指導を見ていていただければ、コーチとしてもやりやすいのです。

●小学4年生から中学校

小学4年生から5年生までは、それまでの延長ですが、まっすぐ滑らせていた子どもに曲げる技術を教える頃でもあります。

小学6年生から中学校に進む頃が子どもにとって一番大事なときです。小学6年のときに優勝した抜群の子どもでも中学に行って成績の上がらない選手が50 パーセントくらいいるのです。というのは、小学生のときと同じパターンで入ってきているからです。つまり、気持ちの切り替えができていないのです。

その気持ちの切り替えを、コーチがうまく指導しないと、中学ではまったく力が出せないことになってしまいます。私は、実のところ、中学ではあまりいい成績を出してもらいたくないのです。しかし現状では中学で芽が出ないと、ナショナルチームには入れないし、高校進学のときに有利な形をつくれないということで、中学のときに力を入れてしまっています。本来はそうではなく、中学のときは、まだまだ学ぶ段階にしてほしいのです。そして、高校に行ったときに伸びるように、育てるべきだと思います。そういった点に対し、いまの現状は難しい転換期にさしかかっているといえます。

中学校での指導は、その子どもに高校から20歳ぐらいまではスキーを続けるという気持ちを持たせるように指導していますがスキーをやめていく時期というのがありまして、中学2年のとき、高校受験の準備に入るときです。しかし、私は中学2年になってもやめないでスキーを続けている子どもにはよく言うのです。

「世間に出たときは、勉強ばかりではなく、スポーツを続けていても、立派な社会人として認められ、会祉に務めている人はたくさんいる」と。

私は、その子どもたちがスキーを続けていてよかったと思ってもらえるように、最後まで見守っていきたいのです。本当に一番難しいのは、選手に「スキーをやめさせる」時期です。高校を卒業して、杜会人になるとき、あるいは大学に進むときです。コーチというのは、その子どもたちにスキーをやめさせるという勧告の時期が来るのです。

ケガの問題とか、いまやめさせないと、その子のためにならないとか……。「お前の力はここまでしかない。いまスキーをやめないと、ドロ沼に入ってしまう。それよりもきちんと大学に入って、これまでの実績を生かした道を進め」と、コーチとしてはとてもつらいですが、言わざるを得ない場合もあるのです………。

高校に進むと、各校にスキー部がありますからほとんどそこの先生方に見てもらうようにして、コーチは陰で見守るといった形になります。ジュニアのコーチはそこまで踏み込んではいけないと思います。ある程度高校の先生方にお任せしないとなりません。各校にも事情がありますから、口出しするようなことは慎むわけです。子どもたちにはヒマができたらチームに遊びに来いよと言って、来たら小学生たちといっしょに遊ばせる、これも大事なことだと思います。高校生たちにとって、昔の自分を思い出させ、やすらぎというか、心のゆとりを与えることができると思うからです。

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第4話 スキーに適したランニングを

④ スキーに適したランニングを

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オフのトレーニングで、みなさんが行なっているのは、ランニングが中心だと思います。
走ることは一番の基本だからです。
しかし、私は子どもたちには、「なにも陸上の選手になるわけではないのだから、スキーに合った走り方を覚えなさい」と教えます。
小さい頃は、ただ長い距離を走るのではなく、きちんとしたフォームで走るということが大切です。よく子どもたちが手首を下にさげて走っているのを見かけます。そうして走ると、とても楽なのです。でも、スキーに合った走り方というのは、手首を少し上に向けて、できるだけ内側に入れないで、肩と腕が一緒にまっすぐに振らなければなりません。このランニングフォームは、スキーストックワークの一つの練習にもなります。

中学生になってもストックワークが非常に悪い子どもがいます。前に突くことができない子、身体の横で持ってしまう子などがいるのですが、これをシーズンのときに、コーチがいくら正しく教えても、20%くらいの子どもたちしか矯正できません。しかし、ストックワークに関しては、オフシーズンのときのランニングフォームを見れば、必ずその子の欠点がわかります。

例えばストックを前に突けない子は、手首を下げて走っています。そしてストックを身体の横に持つ子は手首を内側に入れて走っています。したがって、走るフォームとスキーで滑るフォームというのは非常に関係があるのです。

コーチの人は、オフのトレーニングのときに、スキーに合ったしっかりとしたランニングのフォームを教えておかないと、冬の雪上トレーニングでいくらストックワークを教えても、身に付けるのは難しいということです。とくに、ストックワークは身体の右と左のバランスですから、小さい頃から覚えさせなくてはならないのです。陸上で走るのは速いけれども、スキーではストックワークが悪いという子どもは、大低そのランニングのフォームも悪いのです。

手の振り方以外にも、走り方では短距離と長距離とを区別して教えなくてはなりません。短距離の場合も、グラウンドのような一定した平らな場所を走る場合と、山道のように非常にでこぼこした場所を走る場合とがあります。山道の場合は、きちっと前方の地面を見ながら走らなければなりませんが、400mだ、 800mだと、グラウンドだけを走らせると、逆に集中心をなくすことになります。つまり、そういう山道のようなコンデイションを走らせないと、子どもというのはやはり散漫ですから集中心が養えないのです。

子どもに小さい頃からスキーを教えている親がよくいうのですが、「スキーを始めたら、子どもが物に集中するようになった。それまでは、なんでも見方が散漫だったのに」と。スキーというのは、よそ見できません。よそを向いたら、そっちに行ってしまいますから。だから、オフの陸上でのトレーニングのときからコーチはただ走らせるのではなく、スキーのために走るという目的意識を子どもに持たせることが非常に大切になってくるのです。

●子どもの足くせを把握するのも大切

もうひとつランニングに関しては、「シューズ」の問題があります。
今は、とてもいいシューズがありますから、その子どもの足くせに合うシューズを選ぶ事です。例えば、内股、外股、O脚など、いろいろなタイプの子どもがいますが、それらの「くせ」が、あまり状態がひどいときは内側が柔らかいもの、外側が硬いもの、全体的にラバーが一定しているものなど、その子の走り方を見て、それぞれに合ったタイプのシューズをコーチがアドバイスしてほしいです。

子どもたちにノーマルなスキー靴をはかせて平らな面できちっと起立させてから、全身の力を抜くようにいうと、靴底が内側にあく子、外側にあく子、ピタッとテールが地面(床)につく子といるのです。

これはスキーの技術では、一番大事なのですが、特にダウンヒルでスキーに乗ったときに、ピタッとソールがついていなくてはなりません。身体を脱力したときに内側があいてしまうと子どもは、やはり自然と斜め方向に滑ってしまう。これはひざの入れ方が外になってしまうからまっすぐに滑れないのです。こういう足くせを持つ子どもたちは、詳しいことはお医者さんに聞いてみなければわからないのですが、スキーをやっている中で直すのは、ちょっと難しいことです。

ただ、今のスキー靴はカント調整とか、内がけ、外がけというように、さまざまなタイプのものができていますから、個々の足くせに合わせて選ぶことができます。だから、走る場合も、その足くせに合ったシューズがありますから、例えば外側に力がかかる子は内側が柔らかいシューズを履かせる、完全とまではいかなくても、少しずつ足くせそのものが直るのではないかと思います。

さらに、その子たちが雪上に立ったときの状態がどうなっているかについてもよく見てやらなければいけません。そして、コーチは子どもの足くせに対し先入感を持たないことです。O脚の子なら、その足くせに合ったスキー靴を選べばいいだけですから。

●足裏感覚の重要性

走るといえば、子どもたちはできれば海岸などの「石の浜」を走らせて欲しいと思います。

石の浜を走ると、足首が白然に強くなるし、よそ見をしないで、石を避けながら走らなければなりませんから石の浜を100m走ることは、道路やグラウンドで走る、3倍から、あるいは4倍の効果があると思います。

ここでは無理に長い距離を走らせる必要はありません。石の浜を走った子に感想を聞くと、その効果がよくわかります。「非常に疲れる。走ることも疲れるけれども、とくに目が疲れる」と子どもは言うはずです。石の浜は目、つまり視神経が集中していないと、走れないのです。その上で、いままで使わない神経や筋肉をいろいろ使うから効果があるのです。

スキーのランニングというのは、陸上競技のランニングとは全く違うことです。陸上のランニングでデータが悪い子が、スキーではものすごい成績を出すということもよくあることです。また、小さい頃から、素足、はだしで走らせてほしいと思います。はだしで走ることができる場所は、環境的に限られていますが、砂浜やきれいなグラウンドが近くにあったら、ぜひやってみてください。

はだしで走ると、子どもたちは痛いといいます。足の裏にはかなり神経があるからです。この痛いという感じは、ふつうシューズをはいて走っていてはわからない感覚です。はだしで走ると、それを感じることができるのです。どういうふうに走ると、どこが痛くなるか子どもたちなりにわかってくることが重要なのです。だから、私は自分の足裏の感じをつかませるため、はだしで走ることが必要だと思うのです。スキーでも、足の裏の感じは大切なものです。はだしで走ると、足の指を使います。この足の指を使わせることが子どもたちには必要なので私もジュニアのときから、いろいろなことを考えて総合的にトレーニングをさせているのです。

●なによりもケガに強い子どもを

トレーニングをさせるというよりも、小さい頃からそういうことをさせておかないと、ある年齢に達したときに、いろいろな障害。つまりひざが痛い、腰が痛いことが起きてくるのです。

選手で一番大切なことは、ケガをしないということです。

いくら強くても、いつもケガをしていては、やはりマイナスです。しかし選手をしていると、やはりケガはつきものです。不可欠な事故によるケガはある意味で仕方がないことですがトレーニングをしていて、ひざや腰が痛くなったりするのは小さい頃のトレーニングでなにか無理をしたことがあったためだと思います。だから、大きくなったときに障害が起きてくるのです。その選手が100の力を持っていても、障害のために60か、70の力しか出せない。せっかく、いい素質を持っているのに、障害のためにマイナスになるのは、とても惜しいと思います。

ケガのない、故障の少ない選手が、私はベストだと思います。

小さい頃はダメでも、さらに、中学、高校までダメでも、走らせても運動しても、まったくケガのない故障がない選手というのは必ずあとで伸びてきます。だから、高校で故障を持っている選手は今はいい滑りをし、力があっても将来世界に立つのは難しいと思います。

故障を持っている選手に無理をさせることはできませんし、やはり、世界に行くにはそれなりに故障のない、いい身体を持っていないと、そのためのトレーニングにもついていけないということです。ここで、②で少し触れた食事の問題が関連してくるのです。だからお父さん、お母さんに3歳から5歳くらいの間までに多種多様に食べさせ、好き嫌いのない、なんでも食べられる子に育てて欲しいと思います。
しっかりした食生活の管理をし栄養のバランスがとれた食事ができていないと、大きくなったときに身体のどこかに必ず故障が出てしまうはずです。

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第5話 長期計画がトレーニングの鉄則

⑤ 長期計画がトレーニングの鉄則

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前回④では"走る"というテーマで説明しましたが、コーチの人はただ漠然とトレーニングをさせるのではなく、スキーのためのトレーニングをさせるという感覚をしっかり持って子どもたちを教えてほしいと思います。

子どもたちはあくまで「ジュニア」ですから、ナショナルチームや高校の選手を対象にした内容ではなく、小学校、中学校の子どもたちが雪上に立ったとき必要になってくる基本的なトレーニングを、コーチの人たちは考えなければなりません。

たとえば、縄跳びはとてもいいトレーニングですが、ただ跳ぶのではなく、芝生の上、土の上で跳ばせなければいけません。コンクリートの上は絶対にダメです。それも、スキーの感覚で跳ばせる必要があります。スキーで滑るとき、身体が斜めにねじれる癖のある子がいます。そういう子に縄跳びをさせると、必ず足が交互に斜めになっていくのです。この点をコーチの人がしっかり見てほしいのです。

縄跳びがいい練習だからやらせている、ではいけません。それはただ"縄跳びだけ"のものでスキーに対しての縄跳びではありません。この辺のところをつかむことがジュニアのコーチとして一番大切なことなのです。

ジュニアのコーチは、子どもたちにいろいろなトレーニングをさせる中で、それがどういう意味を持っているのかということをわからせてトレーニングをさせなくてはなりません。ただ走る、縄跳びをさせる、だけというのでは、コーチとしての白己満足に過ぎません。

きちっとした指導方針を持ち、子どもたちにわかるトレーニングをしてほしいと思います。

●大切な左右のバランス感覚

テニスもスキーのトレーニングとして非常にいいといわれています。小さい頃からテニスを覚えると確かに運動神経のいい子になります。でも、私はある程度上達してきたら、右打ちの子は左でも打てるように、左打ちの子は右でも打てるように、交互に打てるようになりなさいと言っています。スキーのためにテニスをやるのなら、コーチの人は誰でも考えていると思いますが、身体の左右のバランスを養うことを考えなくてはならないのです。

ソフトボールの選手にもバットでボールを打つとき、右ききでしたが左で打たせました。やはり、最初は打てませんでした。でも、続けているうちに打てるようになりました。それから左打ちでバットをまっすぐ水平に振る練習をさせました。バットのヘッドは重いですから、手首の力が弱いと下がってしまうのです。これをきっちり水平に振れるようになるまで練習をさせたのです。このように、自然のうちにスキーのためのトレーニングを始めるという発想が大切です。すべてのトレーニングについて説明すると、キリがないのですが、前回でも説明したようにコーチの人は"走る"という一つのことにしても、広く子どもたちを見て、スキーに遭した"走り〃を指導しなくてはならないのです。

●長期計画がトレーニングの鉄則

前述した点がジュニアのトレ-ニング内容がナショナルチームや高校の選手のそれとは、絶対に違うところで、この点を間違えないで、子どもたちを指導していかなければなりません。

子どもは大人のミニチュア版ではないのですから。仮に"大人のミニチュア版"という考え方で、子どもたちに大人の通常のトレーニング内容で教えると確かに上達は早いのですが、必ず大きくなったときに、障害が起きてきます。

だから、一時のことではなく、長期計画で子どもたちを見るということが非常に大切なのです。
トレーニングの鉄則というのは短期間で教えこむことではありません。急激にやると、急に力がつきますが力がなくなるのも急です。ゆっくりやれば、効果がゆっくり出て力がゆっくり持続する。

これが基礎を教えるときの鉄則なのです。

今は私のトレーニング指導の例を説明していますが各地の各コーチにより、いろいろなトレーニングがあると思います。そのどれがいいとは一概にいえません。どのコーチもすべての面でいいトレーニングだと思っているからこそ、続けていると思います。ただ、その自分のトレーニングにそれぞれが、しっかりと自信を持ってほしいと思います。自信を持つというのは、トレーニングの中でただ走らせる、ただ泳がせる、ただバットを振らせるのではなく、その状態を見てコーチがスキーのためにどの点を直したらいいのかと観察、指導することなのです。

●遊ばせながら潜在能力を引き出す

夏のトレーニングで、一ついえることは、各地にいろいろな条件があって、海に近いとか山間部とかと違いがありますが、暑い真夏の中なので子どもたちが喜ぶトレーニングを採用してほしいものです。

暑い日中に汗を流してサッカーやランニングなどをさせても、あまり効果はないと思います。私も真夏に山の中を走らせることをやった時期がありましたが、どう考えても効果がなかったようでした。本州や沖縄のように、真夏が2ヵ月も3ヵ月もある地域はいいのですが北海遣は真夏が20目間くらいしかないものですから、せめてその時期にコーチに考えてもらって、水や海で遊ばせて楽しいトレーニングを子どもたちに体験させたいのです。
ただし、遊ばせるだけではいけません。遊ばせながら、コーチが見てその子が持っている潜在能力を引き出してやる、見つけてやる。これがコーチの務めです。
たとえば、海に行ってものすごい距離を遠泳する子どもたちがいますが、その遠泳する子をボートに乗せてオールを漕がせてみると全然漕げないで、泳いでいるときのほうがどんどん先に進めるのです。小さいですから、あまりボートに乗ったことがなく、漕ぐコツを知らないともいえますが、そのための筋肉がついていないのです。ボートは、オールを水の中に突っ込んで、水をグッとかきわけなくては前に進みません。そのためにはある程度、肩や背中に筋肉がついていないと、水の重さに耐えられないのです。だからボートを漕ぐという一つを例にしても、水をうまく使ってトレーニングさせるということになるのです。

●水泳はなぜいいのか

水泳がなぜいいかというと、人間は2本足ですから、陸でのトレーニングはすべて足だけを使ったものになりがちで腰に負担がかかります。ところが、水泳は水の中で横になります。そうすると、人間の身体に負担がかかることはありません。

じっとしていれば、自然に浮きます。そこで、手足を使って推進力をつけるだけですから、浮力を使った筋カトレーニングだといえます。
また、疲れたときや外国へ行って時差ボケになったときなど、プールで泳ぐとある程度、疲労がとれます。なぜかということはわからないのですが、きついトレーニングをしたあとプールで泳がせるとまた元のいい状態になるのです。ただし、すぐ大会があるとか、ゲームの最中とかの場合はダメですね。プールで泳がせたあと、次の日にスキーをはかせるとスキーが非常に軽くなるはずです。
レースでの結果につながるかは別にしても、身体的にスキーにきちっと乗るという感じではなく、スーツと乗れるのです。身体の中に疲労が拡散してリラックスできるのかもしれません。私は、冬の間でも10日に1回くらいはプールで子どもたちを泳がせてみたいと思っています。
このように、コーチは自分が自信を持ってやれるものなら、どんどんやってほしいです。すぐには効果が出なくても、いずれは必ずいい結果が現れると思います。

ぜひいろいろなトレーニングをさせてみてほしいものです。いまは、トレーニング法についてのいい書籍や雑誌が出版されていますから、それらを参考にしたり、ほかのコーチからも教えてもらったりしていると思いますが、コーチはそのトレーニングにまず疑問を持ってほしいのです。なぜ、このトレーニングは子どもたちにいいのかと。それを考えた上で、自分も納得したなら子どもたちに自信を持って教えることができると思います。

●何よりも子どもが好きでなければ務まらない

いま、チームの子どもたちの間ではサイクリング、自転車が流行しています。中学生はいい白転車を持っている子が多いです。

自転車というのは、スキーと同じように性能のいいものはものすごく高価です。また、いい自転車はとても速いです。同じくらいの筋力を持った子ども同士が、いい自転車と悪い自転車に乗って競争すると断然いい自転車の方が速い。だからこそ、子どもたちはいい白転車をほしがるのです。しかしながらトレーニングにおいては違います。いい自転車に乗って速い方がいいか、悪い自転車に乗って遅い方がいいかというど、スキーのためなら漕ぐことがトレーニングだから、いい白転車なんていらないのです。

白転車がほしいと、子どもに相談されたら白転車競技に出たいという子どもは別にして、スキーのためのトレーニングに使うならそこそこの性能で十分、と子どもに答えてほしいのです。

そんなに白転車にお金を使うなら、それをスキーに使ってほしいと思います。

コーチの中には、子どもたちに「なんだ、遅いじゃないか」「もっと速く走れ」などと、無神経にいう人がいます。そうすると、子どもたちはもっといい白転車を買ってもらおうと考えてしまうのです。これでは、なんのためのトレーニングかわかりません。こういうところもコーチは考えなくてはならないのです。
何よりもジュニアのコーチは、子どもが好きでなければなりません。子どもがきらいなコーチははっきりいってジュニアの指導は難しいです。子どもを怒るときでも、単発的に怒っては子どももなぜ怒られるのかわかりません。子どもに理由がわかるように怒らなければならないのです。まして、四六時中怒っているようじゃ、ますますダメです。
とくに、オフの陸上トレーニングのときに怒ってはダメです。ある程度トレーニングの内容を説明して、子どもたちの好き勝手にさせる。このくらいの気持ちをコーチは持ってほしいと思います。そういったことをきちんとすることで、コーチが一つ一つ教えたことを子どもたちの中で白分自身がしっかりやるという気持ちが養われていくのです。

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第6話 一つずつ欠点を直す

⑥ 一つずつ欠点を直す

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前々回④に、"走る〃というテーマで、腕の振りとランニングの方法を紹介し、その腕の振り方がスキーのストックワークに結びつくと説明しました。その後、このことについて読者の方々から様々なお手紙をいただいています。

紹介させていただくと、ジュニアスクールが近くにないので、専門のコーチではなく、親が子どもを教えているケースがありました。その親御さんも含めて、投書を寄せられたコーチの人たちは子どもたちがどのようなストックワークを使うか、ふだんよく見て知っているようです。

だからといって、ランニングや、室内トレーニングのときに、右ひじが下がるとか、腕でバランスを補う欠点を、一度に直そうとしてはいけません。一つ一つ、課題を少なくしてきちんと直していくということが大切なのです。また、可能なら近くに住む中学、高校生のトップレベルのスキー選手を呼んできて、子どもたちと一緒にトレーニングさせるのもいいと思います。

子どもたちというのは、強い選手、うまい選手には憧れを持つものです。身近に知っているジュニアスクールの先輩と一緒にトレーニングすることによって、「あっ、ボクもああいう選手になりたいな」と、見習ってトレーニングに励みが出てきます。また、いつも同じ顔触れで一年を通じてトレーニングを続けていると、マンネリ化したり、だれてきたりします。そういう面でも年に何回か、憧れの選手と一緒に練習すると、子どもたちが刺激されて、トレーニング内容が充実するという利点にもつながるわけです。

●視線を一定の方向に決めさせる

さて、今回のテーマに戻り、室内トレーニングにおける注意点を説明します。

いまさら私が練習方法を紹介するまでもなく、ジュニアのコーチはそれぞれ独自のいろいろな練習方法を行なっていると思います。
その中で、とくにコーチにしっかり見てもらいたい点は子どもの「目」です。
たとえば、ランニングや、跳び箱などのときに視線を一定の方向にきちんと決めさせてほしいのです。子どもたちは注意が散漫で、あっちを向いたり、こっちを向いたりします。だから目を動かすなということは、頭を動かすなということで、身体のバランスをとるためにも、とてもいい方法です。

室内では筋カトレーニングを行なう場合もあると思いますが、それはそれとして、身体のバランスをとる練習をさせてほしいのです。

たとえば、平均台を使った練習をする場合、平均台の上をまっすぐ歩かせる。次に、片足で平均台を渡る。そして、横跳びで平均台を渡るという形で行ないます。とくに横に跳んで平均台を渡るというのは、バランスをとることを子どもたちは強く意識します。視線がしっかりしていないと、すぐバランスを失ってしまうはずです。
きちっと前方を向かせ、手でバランスをとるのではなく、腰でバランスをとるように指導します。
また、平均台に上がった子どもに向かってコーチがバレーボールのポールを投げ、子どもに受け取らせます。こうすると、子どもはボールを受け取ることに夢中になり、視線が一定方向い向くからです。ジュニアのコーチはいろいろな練習を採用していると思いますので、私はあえてどの方法がいいとは説明しませんが、平均台を使った練習方法のように視線を一定方向に向けされる練習をいろいろと工夫してほしいと思います。

そして、練習に入る前に、「スキーで滑るときに、横を向いていたら、まっすぐ滑ることができないだろう」と、ひとこと説明してあげると、「あっ、この練習はスキーのためのトレーニングだな」と、子どもたちは納得して一生懸命に練習します。
子どもたちは内容が楽しいと、なんでもやりたがります。その中でコーチは子どもの目だけ気をつけておけば、非常に次の動作がよくなります。
また、体育館には床にバレーボールや、バスケツトボールに使うラインが描かれています。この直線のラインや、円のライン上に足を踏み外さないように歩かせたり、走らせたりします。これは視線とバランスのトレーニングになります。ラインを見つめないと足を踏み外しますから自然と子どもたちは視線が一定方向を向きます。円のラインの上を走ると、直線を走るときと違って、子どもたちは身体を円の内側に傾けないと、うまく走ることができません。この身体を内傾して走ることは、非常にスキーのときに身体のバランスをうまく使えることに結びつきます。
このランニングで重要なことは、右まわりに走ったら、必ず左まわりのランニングもさせることです。一定の方向だけを走るのではなく、左右均等に走り、身体のバランスのとり方をおぼえさせるのです。
スキーは左右均等のバランスをとるスポーツですから、ぜひ実行してほしいと思います。

●スキーに結つける工夫

マット運動を行なうときも、子どもたちに楽しさを与えてほしいものです。あまり垢もしろくしてしまうと、子どもたちはそちらに気がいってしまうこともあるかもしれませんから、それほど楽しい内容ではなくてもいいですが、なにかスキーに結びつくよう内容を工夫してほしいです。たとえば、マットとマットの間に低い跳び箱を置きます。跳び箱を跳んだら、次は前転運動をし、起き上がったら、次の跳び箱を跳んで、前転するというように、いろいろと組み合わせて、身体を楽しく使わせることを考えてほしいのです。

ジュニアのコーチは、室内でもポールを仮定して、なにかを置いて左右ジグザグに走らせる練習を行なっていると思います。そのとき、右にターンするなら、外足(左足)をきちっと踏み、内足(右足)を浮かせる。左にターンするなら、外足(右足)をきちっと踏み、内足(左足)を浮かせる。コーチは、この足の使い方をきちんと教えてほしいです。子どもたちは、ランニングしているうちに、スキーに関係がある足の使い方を覚えます。シーズンオフのうちに、こういうトレーニングをさせておくことは大切なことなのです。また、シーズンオフですと、子どもたちはサッカーや、そのほかのスポーツを始めますが、私はサッカーを行なうときには、「サッカーのルールはなし」といいます。子どもたちは、みんなそのスポーツのルールを知っていますが、そのルールにとらわれて、白体が自由に動かないのです。子どもたちには、なんでもやらせていいのですが、スキーのためにやらせているということをあくまで頭に置くべきです。たとえばグラウンドを小さくして、ゴールキーパーを置かないで、小人数でサッカーを行なうのです。こうすれば、どんどん走って、ボールを追いかける機会が増えます。室内でのバスケットボールでも、5人ではなく、3人-組のチームにすると、ボールに触れる機会が噌えます。これを、それぞれの通常のルールに従って行なうと、子どもたちにはなにも残らなく、ただやっただけといラトレーニングになってしまいます。

●身体を柔らかくさせる

最近の子どもたちは身体がかたいことを感じます。柔軟体操を行なうと、子どもたちは「痛い、痛い」というのですね。床に手が届かない子どもがとても多いのです。この身体のかたさについては、ジュニアのコーチはいろいろとトレーニングしている中で必ず感じると思います。
とくに、マット運動を中心に、身体のかたさを柔らかくさせる運動を行なうのが効果的ですが、学校でもいまはマット運動そのものをほとんどやっていないと思います。身体のかたい子どもに対して、ジュニアのコーチが毎日付き添ってトレーニングさせることはできないと思いますが、極端に身体のかたい子どもには、家族に協力してもらって家庭でできるトレーニングをするという手があります。
たとえば、蒲団でもたたみの上でもいいですから、子どもにあぐらをかかせて座らせます。両手でそれぞれの足首をつかんで、またのほうに引き寄せます。これで股関節が柔らかくなります。この状態で、アシスタントが子どもの背中を軽く前方に押して、子どもに前転させます。このような運動を続けていると、だいぶ身体が柔らかくなります。

●左右への動きについて

左右へすばやく動く、つまり敏しょう性と反射神経を養う練習も、ジュニアのコーチはいろいろと行なっていると思います。
室内の場含は、柔らかい軟式テニスのボール1個でも十分行なえるトレーニング方法があります。
子どもたちを体育館の壁の前に立たせ、コーチは子どもたちの身体(顔は除きます)を目標にボールを投げます。子どもたちはその投げられたボールをかわしてよけます。こんな運動も、左右にすばやく動くという敏しょう性と反射神経を養うことができます。また、野球でも右打ちの子どもには左打ちでボールを打つ、左打ちの子どもには右打ちでボールを打たせる練習をさせます。バットも軽めにして、どちらかの手-本で振らせてもいいでしよう。

室内トレーニングの場合は、ボールは柔らかい軟式テニスのボールを使用し、狭くてバットを振るのが危険だと思ったら、学校体育館にある上がり台バットを振るようにすれば、バットがほかの子どもに当たることはないでしょう。子どもたちにとっては、ふだんとは違った位置(打席)でバットを振るという、新しい遊びですからその遊びに夢中になり、自然に左右のバランス、反射神経を養えます。バレーボールや、バスケットボールでも、ボールを利き手ではないほうで投げさせるようにしてほしいと思います。こうして、むりなく左右の身体のバランスを垢ぼえさせていくのです。
運動中子どもたちが体のどこかを「痛い」といってきたときは、まず休養させることです。痛いということは、子どもの身体が黄色信号を送っているのです。痛いのをガマンしてトレーニングを続けると、成長したときに大きな障害が起こってくることもあります。また、その課題がきらいで痛いというケースもあると思いますが、それでも子どもたちが痛いというのなら休養させるべきです。
身体が青信号になれば、子どもたちは進んでトレーニングに参加してくるものです。

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第7話 ブーツが’痛い’というのは2通りの場合がある

⑦ ブーツが’痛い’というのは2通りの場合がある

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今回は子どもたちのスキー用具を選ぶポイントについて説明してみます。

まず初めはブーツについて考えてみたいと思います。
コーチのみなさんは、子どもたちがブーツをはいたとき"痛い"というのをよく聞くと思いますが、その場合でも、ただ単に『痛い』という感じと、『圧迫感がある』という感じの2通りがあるのです。だから、子どもが痛いといったときは、ブーツのインナーをはずしてはかせてみます。そして、親指のあたりを押してみて、0.5Ccmくらい親指の先が余るくらいの感じであれば、大きさは適当であると思います。
つまり子どもがブーツを履いて痛いというのは、1部分があたって痛いのと、足が締め付けられると包みこまれる感じの2通りの場合があるわけで、本当にインナ-が小さいのかどうか、実際にインナーだけをはかせてみて調べてほしいのです。
ブーツを選ぶ場合、とくに足首の太さを調べることも必要です。
子どもは、足の裏の大きさと比較すると、足首が細いですから、このブーツはいい品物だから大丈夫と決めつけないで、ちゃんと子どもの足首の太さに合わせたブーツを選ぶことが大切なのです。足首の細い子どもはバックルを目一杯にしても、まだ余り、足首がきっちり締まらないことがあります。この場合、ブーツが新しいうちに、ショップヘ持って行き、バックルをはずして少し足首の部分を詰めるフォーミングをしてもらうことです。
だから新しいブーツを選ぶときは、バックルを締めて、足首がきちっと締まることが重要です。
ところが雪上トレーニングや、スキー場で、よくブーツが脱げてしまう子どもがいるのですが、これはブーツのバックルの締め忘れが多いのです。最初の雪上トレーニングのときに、コーチがきちんとバックルを締めることを指導してほしいと思います。多勢の子どもがいる場合、コーチは大変だと思いますが、滑ることよりも、まず用具の選び方からコーチが立ち会って指導するのがとても重要だと思います。

●長めのストックの有効性について

ストックの場合も、コーチがきちんと指導していないと子どもたちはいろいろな長さのストックを持ってきます。
ストックに関してはその子どもの体格に合わせた長さのものを選ばせるように指導してほしいと思います。
ですが、ジュニアの場合は体格より少し長めのストックを選定といいと思います。なぜなら、子どもたちは身体を折って滑る傾向があるので、小学生の高学年は別にして、低学年の子どもはストックを前につかないことが多いのです。
長いストックはその欠点を矯正する効果があります。最近は、大会ではスラロームが少なく、大回転種目が多くなっています。大回転というのは、ストックをつかなくても、ある程度滑ることができるのです。このため、子どもたちは尚更ストックをつかなくなっているのです。
しかし、長い目で見れば、子どもに小さいうちからストックワークを教えるということは、将来、必ず役に立つと思います。そのためにも、長めのストックを持たせると、初めは少しつきづらいですが、次第にストックを前につけるようになります。身体を折るクセが完全に直るまでにはいかなくても、きちっとストックを前について滑れるようになるのです。

このストックワークを、最初の雪上トレーニングのときに、ジュニアのコーチは子どもたちにきちっと教えてほしいと思います。また、ストックには手皮がついています。ショップで売られているときは、左手も右手も同じ位置ですが、実際に滑るときには、左手と右手とでは、手皮の位置が違います。この点もコーチはチエックしてほしいのです。
また手皮を長めに持っ子どももいますから、そういう子どもに対しては、手皮を少し詰めるように指導してほしいと思います。

●ビンディングは簡単にはずせるものを

ビンディングは、いろいろなタイプのものが市販されていますが、子どもたちの技能・脚力に合うもので十分です。

子どもたちは上級モデルビンディングをほしがりますが、上級モデルビンディングはスプリングが強いですから、強度を5の目盛りに合わせても、子どもははずせないのです。子どもがはずせなければ、いくらいいビンディングといってもなんにもなりません。

子どもたちをねんざや、骨折から守るためには、安全で、簡単にはずせるものがいいのです。この点を第一に考慮して、子どもたちがはずすことができるビンディングを選ぶことが必要です。
私も、過去のトレーニング中に、なん人もの子どもたちがねんざや、骨折をしています。その原因は、私の責任もありますが、子どもたちにビンディングをゆるめておけよといっておいても、子どもたちが実行しなかったからです。そのため、足をねんざしたり、骨折したりしたのです。だから、雪上トレーニングを行なう前に、コーチは子どもたち一人一人のビンディングチェックをしてほしいと思います。とくに、上級ビンディングの場合は、子どもたちがはずせるかどうかを、きちんとチエックしてほしいです。逆に余りに簡単にはずれる場合は、目盛りを1段階つめてやり、それではずれなければいいでしょう。

また、最近大会などで、コーチや親が子どもたちのビンディングを必要以上に締めているケースを見かけます。これは危険です。どこかに負担がかかったときに、はずれないと、大変なことになります。全日本大会のような大きな大会ではないのですから、子どものうちは、たとえ大会でビンディングがはずれてレースで失敗しても、ケガをしなければ、また次の大会に出場することができます。ビンディングがはずれないで、足をねんざしたり、骨折したりしたのでは、子どもに1年も2年も障害を与えてしまいます。
練習中にビンディングがはずれなかったら、大会といっても、そのままビンディングを締めないでスタートさせればいいのです。
本番で、仮にビンディングがはずれるようなことが起きても、負担がかかってはずれたのですから、子どもには「よかったな。ビンディングがはずれて! はずれないと、足を折っていたぞ」といえば、「あっ、そうか。ビンディングって大切だな」と、子どもがわかります。
これを「やあ、しまった。もっと締めておけばよかった」というのでは、子どもたちをねんざさせたり、骨折させたりするようなものです。

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第8話 まっすぐ滑る能力を伸ばす

⑧ まっすぐ滑る能力を伸ばす

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シーズン初めに特に注意してほしいのは、小学生の場合シーズンがかわるごとに使う用具が全て新しくなることが多いということです。

引き続き同じ用具を使う子どもは30%くらいでしようか。
ということは、この時期は大部分の子どもたちが自分の用具に慣れていないということです。指導者たちはそのことを頭にいれて滑りを見ていかなければなりません。
では今回から、いよいよ雪上でのスキートレーニングについて具体的に話を進めていきたいと思います。
滑走を練習する場合ですが、基本的には小学生の子どもたちは非常にスピードに対して強いです。そして曲げることよりも、まっすぐ滑ることのほうが好きです。コーチは、この能力を伸ばすように指導していく必要があります。つまりスキー競技ではスピードに慣れるということが要求されますが、子どもたちは初めからその能力を持っているのですから、それを指導者たちはしっかりと受け止めなければならないのです。
ところが、子どもたちに小さいうちから技術的なことや、細かいターンなどを教え、欠点を指摘し、それを直していくという、大人と同じような指導法をとってしまうケースが多いと思うのです。
最初は、まだ滑ることもできない子どもは別としても、まっすぐ滑ることができる子どもなら、その能力を伸ばしてやることが必要です。スキーは構造的にも曲がるようにできているのですから、曲がる技術というのは簡単なものなのです。だから、曲がる技術は、教えなくても自然に覚えるものなのです。
また、小学生時代には大会でよく勝ったけれども、中学に行ったら、さっぱりダメだという子どもが60%くらいいます。小学生で勝っ子どもは、極端な語ですけど、ポール練習を教多くやって、ある程度上体を折ったフォームで、大人に近いようなトレーニングを積んだからなのです。小学生の場合は基本トレーニングをするよりは、この方がはるかにレースに勝つことができます。ところが、そういうトレーニングを積んできた子どもは、身体がどんどん成長してくる段階になると、意外にレベルが下がってくることが多いのです。それは小さいときに基本トレーニングをしていないからです。
逆に基本トレーニングをしっかり積んできた子どもは、それをベースにして、中学生になってから伸びてくるということです。

●ストックワーク技術の重要性

さらに、途中で伸び悩む子どもの特徴の一つはストックワークの技術にあります。
ストックを右左、きちっと左右均等につくことができる子どもが少ないのです。やはり、スキーを始めた段階で、きちんとストックワークを教えてもらっていないからでしょう。だから、子どもたちは我流というか、白分勝手に滑ってしまうのです。特に、日本の雪の場合は湿気があり、雪がスキーをかんでスキーが必要以上に雪面をとらえてくれます。
しかしヨーロッパの雪の場合は湿気が少ないですから、ある程度しっかりと外スキーに乗っていないと、スキーが流れてしまうのです。日本はこれがありませんから、どのような滑り方をしようとも曲がってくれるのです。子どもたちが普股ゲレンデを滑っているのを見ると、腕を内側に入れ、非常に上体を振って滑っている子どもが多いです。それはスキーが曲がりやすいから、上体を振るだけでストックを使わないのです。
けれども、スキーにきちっと乗っていないと、右と左と均等にストックをつくという、ストックワークはできません。この基本の姿勢が子どもたちにできていないのです。したがって、指導者たちは子どもたちがある程度滑ることができて、スピードにも慣れてきたら、次に右と左のストックをきちんと前につくということを教えてほしいと思います。そのためには、子どもたちにやや長めのストックを使わせ、手皮をその子の手にきちんと合った位置で持たせることに注意しなければなりません。
また、手皮が長いと、きちっとストックを持つことができなくなりますから、その長さにも気をつけることです。もし、夏季に陸上トレーニングを行なっていたら、そのときのランニングなどで、子どもたちの手の振り方がわかります。その手の振り方がストックワークの振り方になっていないようなら、その時点から右と左のストックのつき方を教えておくというのも、一つの方法です。そして、シーズンに入ったら、「右のストックをついて、ハイゆっくり曲がりなさい」「左のストックをついて、ハイゆっくり曲がりなさい」というように、一つのリズム感を子どもたちに教えていくのがベストな方法だと思います。

●なぜフリースキーが大切なのか

もう一つ気をつけてほしいのは、特に小学生の場合は、「すぐ曲げてしまいやすい」という点です。
すぐ曲げるというのは、小さなターンをするというのではなく、身体を振って、キューンと曲げてしまうのです。グーンと大きく、ゆっくり曲げるということを、子どもたちは行なわないのです。日本のスキー場の場合は、非常に狭く、特にシーズン初めになると、とても混雑します。そのような状況下で、大きく曲がるということは不可能な場合もあります。そして、子どもは背が低いですから、高い位置から遠くを見ることができない。つまり、大人と違って、子どもは視野が狭いのです。それだけ雪面に対する目の位置が低いですから、大人と比較し、スピード感はあります。そのスピード感に乗って、子どもたちはどんどん滑っていますから、いざ曲がるというときには、スキーを横に振って曲がってしまうのです。
ジュニアのレーシングチームに所属する子どもたちも結局は同じです。普通ポールがありますから、それに制限され、ポールの中でだけそういうことをやらないのです。だから、前述のポール練習を数多くこなした子どもが小さいころはいいタイムが出るというのはそこにも一つ原因があると思うのです。

そこでフリースキーが必要になってくるのです。
子どもたちにフリースキーの練習だけを行なわせると、ちょっと目を離すと、すぐ身体を振って曲がるという現象が起きます。だから、指導者たちは小学生に、なぜフリースキーの練習が適しているのか、なぜ練習させなくてはならないのかという点について、もう一度考えてほしいのです。
それは、スキーを振ったりする、わるいクセをなくすためのものであることを再認識してほしいのです。

●しっかりとした目的意識を

具体的には、どういう練習方法をとっているのかというと、子どもたちにしっかりとストックをつかせて、大きくゆっくりと曲がる練習をさせています。

スキー場の斜面の端から端まで有効に使って、スピードは出なくてもいいですから、半円を描くような感じで、曲がったらスキーのトップを上方に向け、大きくゆっくりと曲げていき、反対側の斜面に行ったら、またゆっくりと大きく曲げます(図1)。
ところが、子どもたちに大きく曲がれというと、子どもたちは勘違いして大きく曲がっても、スキーのトップを下方に向け、そのまままっすぐ下に向かってスピードに乗って滑っていってしまうのです。曲がったところで、スキーのトップを上方に向ければ、スピードは上に向かっていき、ある程度スピードをコントロールすることができます。それで大きくゆっくりと曲がることができるのです。
この練習は、ストックを自然に左右均等につき、身体を振らないで外スキーに体重を乗せて、ゆっくりと曲がるという技術を身につけさせるためのものです。
子どもたちは、身体を振ってスキーを横にずらして曲げるという悪い癖を自然に身につけていますから、この段階で直しておかないと大きくなったときに、そのクセが出て、スキーを横にずらし曲げてしまうようになるのです。
指導者たちは、目先のことにあわてないで、大きな目的を持って子どもたちを教えてほしいのですが、一方、親のほうがあせってしまうことも多いのです。大会に出たら、勝つということが親にとってはとてもうれしいことはわかります。しかし、そのような親に対して、指導者たちは話し合いの場をぜひつくってほしいのです。
「小学生時代だけでいいのですか」「それとも、真剣にアルペンをずっと続けていきたいのですか」ということを聞くといいですね。
そうすれば、その親が子どもに対しどのような目的意識を持っているのかがわかるし、指導者たちも、その答えの如何によって、その後の指導方針が定まると思うからです。
少し余談になってしまいましたが、結局、小学生時代はこのストックワークは生きてはこないかもしれませんが、中学生になったときに、必ず生きてきます。特に、左右にストックを必ずつけられるということは、本格的にスラローム競技を始めたときに非常に早く開花してきます。だから、ストックワークの技術を身につけている子どもは、次の技術トレーニングに進んだときに、非常に進歩が早いということなのです。

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第9話 大きなターンの技術が身に付くと

⑨ 大きなターンの技術が身に付くと

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前回⑧にて説明した大きなターンの技術は、小学生の段階ではあまり生かされることはありませんが、中学生になったときに必ず生きてきます。特に、左右均等にストックがつける選手は、スラローム練習のときに非常に早く開花します。

それは、ある程度の基本を身に付けていますから、高度な技術にもついていくことができるわけです。したがって、ストックワークがしっかりできている子どもは、次の段階での技術トレーニングでも、その上達がとても早いのです。けれども、左右にストックがつけなければ、いくら朝から長い時間をかけてトレーニングしても、それはただ滑っているだけに終わってしまうのです。では、大きなターンばかりを練習していればいいのかということになりますが、そうではないですね。
いまリーゼンが基本ということで、どの指導者も大回転のトレーニングだけを練習させており、スラロームのトレーニングはほとんど練習させていないと思います。もし、環境がよくてスキー場に理解があり、余裕があるようでしたら、大きなターンの練習のほかに、ぜひ中回転の練習を加えてほしいですね。中回転の練習というのは、リーゼンとスラロームの中間みたいな感じのセットで、1本ポールでいいですから、スフラロームのように細かく立てないようにします(図 1)。
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これで子どもたちに練習させると、非常にタイミングよく回転することができます。リーゼンの場合、中学生くらいになると、自然にポールに入ることができますが、どうしても小学生の場合は姿勢が低く、雪面に対しての目の位置が近いですから、すぐ曲げようとする意識がでてしまいます。きれいなコースなら、まだ回転することができますが、ある程度掘れたコースでは、とても回転することは無理です。それなら、リーゼンとスラロームの中間で、しかも間隔の空いたポトルで練習したほうが子どもたちはきれいに円を描いてポールに入っていけると思います。具体的に説明しますと、図1のように、急斜面ではなく、緩斜面を使って、上から下までポールの問の長さを等間隔(10メートルくらい)にして、リズムよく、回転できるようにセットします。そして、そのポールを意識させないように、白然に円を描いてポールに入れるように練習させるのです。これなら、無理をしてポールにぶつかることはないと思います。また、指導者の方たちは既に知っていられるかと思いますが、このほかにもポールの立て方があります。たとえば、図2のようにラインどおりにポールを3本セットする方法ですが、これが長いポールだと、子どもたちにはじゃまになりますから、ショートポールを立てるようにするのです。それから、図3のようにラインの外側に3本のポールを立てるセッティングもあります。これはそのポールの内側にスキーをあてる感じで滑っていく方法で、このほうが子どもたちにとっては練習しやすいと思います。
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ぜひ一度試してみていただけると、そのよさがおわかりになると思います。

●ブーツのゆるみ

小学生の場合、一度ブーツのバックルを締めると、ブーツを脱ぐまで、ほとんどそのままの状態で締め直すということはありません。だから、指導者の方たちはリフトなどに乗ったあとは、必ず滑りに入る前に子どもたちのブーツのバックルを点検してほしいと思います。ブーツのバックルをしっかり締めて、ブーツとスキーとが一体感になっていないと、どうしてもスキーが横ズレを起こすからです。
ブーツは、子どものレベルに合ったものを選ぶことが大切で、指導者の方たちは購入する前に親御さんにきちんとアドバイスしてあげることが必要です。なにもいわないでいると、親御さんたちは子どものいいなりにいろいろなものを買ってしまいます。持ってきても、それがその子に合わなければ「これはダメですよ」と、はっきり指摘するくらいの態度であってほしいです。
技術のことは当然ですが、子どもが使う用具についても「合わないものは、その子にとってマイナスになる」と、強く主張してほしいのです。指導者の方たちは意外に親御さんたちに対して遠慮がちで、なにもいわないのですが、これは大切なことなのです。

●子どもたちに直滑降を

スキー場の条件がよければ、子どもたちには上体を折らないで、高い姿勢、つまり直滑降の姿勢で滑らせる練習をさせてほしいと思います。それには、危険が伴いますから、指導者の方たちは、それぞれの子どもたちの技術を十分に把握したうえで、練習にあたっては細心の注意が必要です。

その場合、ストックの位置、手の位置、スタンスなどは、その子に合ったものにして、通常の直滑降のフォームで滑らせるようにします。これは、小さい頃から直滑降の感じを身に付けさせるということです。曲げるということは、子どもたちは白然に身についているものですから、まずまっすぐに滑るという感覚、スピード感を養えるのです。また、小学生には、次から次へと技術を説明していっても、理解することはできません。一つのことができなければ、たとえばストックワークができなくても、それができるようになるまで、ストックワークだけを教えるようにしなければなりません。そして、ストックワークができるけれども、身体が振られるという子どもに対しては、今度はその身体が振れないようにするにはどうしたらよいのかということに絞って教えればいいのです。だから、あまり細かいことを教えないともいえます。

トップレベルの選手たちに教えるように子どもたちを教えても、それは無理だと思います。小さい頃に、あまりにも細かいところを注意すると、肝心なところが抜けてしまう恐れがあるからです。基本的なところだけを、きちんと教え、あとはスキー場での行動、生活面のマナーをキチッと教える。たとえば、リフトに乗ったとき、後ろを振り向いて後ろの子とおしゃべりをするといった点を見つけたら、すぐその場で注意するといった「厳しさ」を教えてほしいです。
それから、ポールをセットした状態での練習のときに、ポールの近くで転んだら、すぐ立ち上がるクセも、小さい頃から付けさせたいと思います。転倒しても、なんでもないのに、すぐ立ち上がらないというのは感心できません。このすぐ立ち上がることができないというクセは、大きくなったときにその影響が出てきて、いわゆる機敏さを失うのです。
たとえば、大きな大会に出ていて、転倒しそうに見えても転ばないというのは、動作がすばやく機敏なのです。だから、そういうクセを持つ子に対しては、ピシッとしかりつけて、そのクセを直すようにしてほしいと思います。だいたい、あとから滑っている子どもがいますから、大変危険なことなのです。

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第10話 基礎トレーニングをしっかり

⑩ 基礎トレーニングをしっかり

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先日、北海遣で行なわれた小学生のスラローム大会を観戦し、大変残念なことを見かけたので、それについて説明したいと思います。

それは小学生のうちからスラロームで逆手を使うチームが非常に多くあったことです。日本全国には多くのジュニアのチームがあると思いますが、それぞれに必ずチームの特色が出ており、コーチたちが一生懸命に教えている証拠だと思います。しかし、あえてこの場をお借りして発言させていただくと、小学生のうち逆手は必要ないのではないかと思うのです。

大会に勝たせたいという気持ちがあると思いますが、逆手を使ったから速いということはありません。ワールドカップの選手と子どもたちは違うのです。ジュニアの段階では子どもたちにきちんとしたスキーをおぼえさせることを考えてほしいと思います。コーチの方が小学生のうちは逆手を教えないという考えを持っていただくと、その子どもは将来伸びるのではないかと思うからです。

なぜ、小学生に逆手がダメであるかということですが、小学生は成長期にあたり、まだ身長が低く、ポールのほうが高いのです。身長が低いのに逆手を使ってポールにぶつかると、ポールの下部をたたき、手には厚く、しかも非常に重く感じます。たとえば、中学生の高学年になると大人なみの身長になりますから、逆手を使ってもポールの上部をたたくことができ、その部分は曲がりやすいですから、負担はかかりません。

しかし、小学生では無理なのです。そうすると、子どもたちはどうするかというと、ポールにたださわっているだけで、しかもそのポールの力で押し戻されてしまい、そこでスキーが流れる、という現象が出てきてしまうのです。もう一つは、小学生のうちはまだ十分に基礎技術が身に付いていません。その基礎技術を勉強している段階で、逆手で入っていくと、腰がまわってしまうのです。

これはポールに対して、逆手で入っていくと、まず肩が逆に入っていきます。肩がまわるから、腰がまわるのです。普通は肩が山側に向くのですが、逆手のために山側に向けられないのです。また小学生は身長が低いし、体力がありませんからポールからかなり離れて入っていきます。ポールぎりぎりには入ることはなかなかできません。そこで、どうしても手をポールに引きつけようとするから、肩がまわり、腰がまわり、それによってスキーが流れてしまいます。

また、ポールのそばでエッヂングすることも下に流れる原因につながります。人によっては、タイムが出て、それでも勝つことができるからいいではないかと思われるでしょう。それはそういう逆手を小学生のうちから行っていれば、確かに逆手を使わない子どもよりも、使っている子どものほうがソコソコの成績が残せるかもしれません。しかし、その子が中学、高校に進んだときに、腰のしっかりしたスキーをしていないと、必ず今まで自分よりレベルの低い子に負けてしまうでしょう。そこで、その子は壁にぶつかり、もうそれ以上伸びることができないという例が、過去に何人もいます。

したがって、ジュニアのコーチというのは小学生のうちだけ勝たせたいのか、それともその子の将釆を見極め指導していくのかという点に関し、しっかりした考えで子どもたちを見てやらなければ大きな誤りを犯す恐れがあるといえるでしよう。

やはり、まだ子どもなのだという意識を、ジュニアのコーチたちは常に通常のトレーニングの中で持っていて欲しいと思うわけです。

とくにスラロームの場合、リーゼンも同じですが、早いうちからエッヂングして切リ上がらなければならないのです。小学生に限らず、中学生でも、本当に大胆な滑りを教えたいのでしたら、逆手など教えないで、白然にストックワークをキチッとつかせ、きちんとしたスキーをおぼえさせなければ、将未伸びが少ないのではないでしょうか。

「ポールぎりぎりに入れたら、確かに逆手はいいかもしれないが、ポールからかなり離れているのに逆手を使ったら、どうなると思う」と、中学生の高学年に、私はよくいいます。そして、実際にポールの位置に立たせて、その子に試させてみます。そうすると、どうやっても身体がまわるから、子どもたちは納得します。

ただ、逆手はいい、逆手はわるいというのではなく、ある程度子どもたち自身が体験しないと、納得しません。また、子どもたちはトップレベルの選手たちを見ています。ボクもああいう選手になりたいという願望を持っています。そして、トップレベルの選手たちの技術写真は雑誌などに掲載されていますから、そういったものを読んでいる子どもたちは、はっきりいって、われわれコーチよりもいろいろなことを知っている場合もあるのです。

だから、コーチたちも普段から勉強していないと、いろいろと質間されて困ることもあり、子どもたちに知識の面では追い付かれることもあります。スキーの技術というのは、それほど世界的にも進歩していないと思います。札幌五輪時代の技術と現在の技術とでは、どれだけ差があるのかといっても、私はほとんど差がないと思います。

技術や、滑り方をどうするといっても差はないのです。この滑り方をしたから絶対速いかといっても、私はそのようなことはないと思います。スキーの技術を身に付けさせるには、やはりジュニアのときに基礎のトレーニングをしっかり練習させることだと思います。

将来、その子に体力や、持って生まれた才熊素質が備わり、それに小さいときから磨かれた基礎技術が加わって、初めてその子の滑りが完成するのです。したがって、その子の滑りが完成するまでは、絶対にあわてないで、その年齢に応じた雪上トレーニングを練習させて欲しいと思います。

その辺を、ジュニアのコーチの方は間違えないで白信を持って子どもたちに基礎トレーニングを教えて欲しいです。その場限りで大会に勝たせるのではなく、今は出てこなくても、将釆その子どもが持っている素質が必ず出てきますから、それが出たときにしっかりとした年齢に応じたトレーングを教えるということです。

年齢に応じたトレーニングの方法は、私が説明しなくても、専門の先生方が書かれた書籍がありますから、それを参考にされるといいと思います。そして、前にも触れましたが、小学生の場合は身長が低いために雪面に対する目の位置が低いということを頭に入れて、中学生の選手とは大きく違うのだということを再認識して欲しいと思います。

スラロームの用具について説明します。

私の教えている子どもたち、とくに中学生はきらうのですが、スラロームの練習の際には、顔を守る防具をっけさせて欲しいです。たとえば、ヘツドギアとかヘルメツトとかですが、中学生の高学年になると、ポールにバンバンとぶつかります。手でポールを払いのけるというよりも、ポールに近くなれば自然にぶつかります。そのとき、ポールにぶつかり歯を折り、顔面をぶつけることがあります。

顔は大切ですから、ぜひ顔面を守るものが必要です。またスキーの長さについては、ジュニアのコーチの方もいろいろと考えていると思いますが、最近私はどちらかというと、短めのスキーのほうがいいのではないかと、非常に強く感じています。子どもの身長を見て、スキーの長さを決かますが、このくらいかなと考えた長さよりも、さらに短めのスキーを選ぶのです。とくにスラロームのときは、セットが狭いですから、短めのスキーにのせることが必要だと思うのです。

なぜ短めのスキーがいいのかというと、極論ですが、短いスキーをはいた場合、しっかり前にのっていないと、スキーにはのれないのです。長いスキーのほうがどの位置にのっても、スキーにのれるのです。たとえば、身長170cmの人が160cmのスキーをはくと、最初はフラついて曲がれませんが、慣れると大きなターンができるようになります。そして、短いスキーにのればのるほど、しっかり前にのっていないと、グーツと大きく曲がることができないのです。

したがって、この点を考えると、これからの選手にスラロームを練習させるには短めのスキーをはかせるというのは一つの方法ではないかと思うわけで、子どもは曲げるのはうまいですから短めのスキーのほうが操作しやすいのではないでしょうか。

ヨーロッパでは、身長と比較して随分短めのスキーをはいたスラロームの選手を見かけました。だから、日本のジュニアの選手はスキーが長いのではないかなと、非常に感じたのです。できたら、ジュニアのコーチの方も、自分で短めのスキーを試してみて、スキーの良さについて検討されるといいと思うわけです。

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第11話 子供達のスキーは親御さんの手でチューンナップを

⑪ 子供達のスキーは親御さんの手でチューンナップを

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これまでも何度となく触れてきましたが、子どもたちの指導に際し、御家族の方の協力は欠かせません。直接的、関接的を問わず、その力は大きな意味を持ってきます。今回も、まず親御さんたちへの「お願い」から話を始めてみたいと思います。

それはスキーのチューンナップについてです。余りスキーに詳しくない方にとっては、チューンナップといってもピンとこないかもしれませんが、簡単にいえば、スキーを家具など手入れするように、きれいに磨き上げることです。このチューンナップを、小学生のときから親御さん自身で教えてほしいと思います。やはり、指導する立場としては、きちんとしたスキーをはかせて滑らせたいのです。

エッヂがガタガタ、滑走面もガタガタ、そしてワツクスをいつかけたのか分からない、それどころかワックスをかけたことなど一度もないというスキーでは、いいターンができるはずはありません。

ジュニアのコーチにとっても、そのような不整備のスキーをはいた子供を指導するのは、とても大変だと思います。小学生の低学年くらいだと、自分ではチューンナップができないと思います。そういった場合、子供の目の前で家族の方がエッヂを研いだり、滑走面をきれいにしたり、あるいは定期的にワックスをかけたりすると、子供は自然にチューンナップの方法をおぼえます。

そして、「お父さん、お母さんはこんなにボクのスキーを磨いてくれる」「ボクもがんばらなくては」という気持ちを持つようになると思います。

具体的にチューンナップをどのように行なえばよいのかは、それぞれジュニアチームのコーチの方がよく知っているはずですから、その方に遠慮なくたずねたらいいと思います。とにかく、なるべく自分の子どものスキー板は、家族の方が面倒を見る。そして、子供が自分でチューンナップができるようになるまでは、それを続けてほしいのです。

チューンナップを自分の手でできないと、中学生になって大会などに出場した場合に大変苦労することになります。また、最近では全国各地にあるスキー専門店に、チューンナップ用のすばらしい機械、ストーンマシーンというのが置いてあります。このマシーンを使うと、スキー板がとてもきれいになりますから、シーズン初めにしまっておいたスキー板を店に持っていき、ストーンにかけるのはいいことだと思います。

お父さんお母さんが自分たちで手をかけなくても、運動具店にチューンナップを任せるのも一つの方法かもしれません。しかし、いつもそれを繰り返していると、今度は子どもがいつまで経ってもチューンナップの方法をおぼえられないのです。だから家庭で子どもにやり方を教えながら、チューンナップをしてやるというのがいいと思います。

●スラロームの練習用ポールセットについて

小学生の場合ポールトレーニングの方法については、以前の⑨で紹介した10m間隔のセットなどで練習するのがいいと思います。また本格的にポール練習に取り組むのは小学校5年生くらいからで十分でしよう。4年生までは基礎トレーニングで遊ばせるという感じで大きくターンする方法を教えるだけでいいと思います。そして、何か技術的につまずいた場合は、できるようになるまで、そのことだけを教え続けます。4年生までにフリー滑走で、しっかりした弧を描いたターンができるようになれば、5年生になってからポールトレーニングに入っても、すぐうまくできるようになると思います。あとの間題はポールに対する慣れだけでしょう。

また子どもたちが全員小学5年生、6年生の場合は、前述のような小学生用のセットを用意すればいいのですが、その中に中学生が加わって練習する場合は違う方法を考えなければなりません。中学生の数が少ないときは、全員、小学生用のセットで、中学生にとっては基本を復習する意味で練習させるのも効果的ですが、数が多いときは、中学生用のセットに工夫を加えて、小学生にもそのセットで練習させるようにしたらいいと思います。その方法を説明する前に中学生用のポールトレーニングのセットについて触れておきたいと思います。

第一に頭に置いてほしいのは、決して競技用のセットでは練習させないということです。それは練習用のセットで、様々な応用を考えながらトレーニングした方が、将未的な効果という点で格段の違いが生まれるからです。では以下図を参考にしながらポールトレーニングのバリエーションについて紹介してみたいと思います。
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図1のように最初に3本のポールでオープンをつくり、その下にポール3本を立ててヘアピンをつくり、またその下にポールを3本立ててヘアピンをつくるというようにして、ヘアピンを4セットつくり、最後にオープンをつくります。ヘアピンの3本のポールは通常のものより間隔はつめてしまいます。逆にいうと、ちょっと入りにくいようにセットするのです。そうすると、子どもたちは簡単には入れないですから、それに入るために、エッヂングをキュッと短くしなければなりません。このように、練習のときにいつも入りやすい、リズムのいいセットをつくるのではなく、多少入りにくいセットをつくることにより、将来子どもたちが難しいセツトにぶつかったときに、それに対応できるような反射神経や機敏さを養えると思うのです。

さらに、図1の1の部分ですが、これを図2のように①急に落差をつける、あるいは②中間の位置、③斜めに持っていく位置、というように横幅に変化をつけると、子どもたちはいろいろな面でリズムをつけてターンするという技術をおぼえていくことができます。このようなポールのセッティングについては、ジュニアのコーチの方はそれぞれに自分なりのものを持っていると思いますが、それを子どもたちのために、練習のときからアレンジし、セッティングしてほしいと思います。

あくまでも大切なことは、将来、子どもたちを持っていくべき方向に対して遭したセットをつくり、いろいろな技術をおぼえさせることが必要なのです。そのためには、ジュニアのコーチの方は、1つのセッテイングの中に、4つなり5つなりの構成を考えて、スラロームの練習をさせてほしいものです。3本ポールのヘアピンゲートでの練習のとき、とくに気を付けて指導していただきたいのは、この3本のポールに対しては1つずつ弧を大事にしてターンするのではなく、3本目から次のポールヘの出方が大事なのです。

ここをコーチの方がしっかりと教えてほしいのです。だから中央のポール(2本目)はエッヂング不必要で、むしろスキーをフラットにして入り、3本目のポールに対しても、エッヂングをどの方向に向ければ、その次の構成のポールにうまく入っていけるかを考えながら滑らせるということです。

●「捨てポール」を使った大回転のラインどり

次にリーゼンスラロームのラインどりにっいて説明したいと思います。リーゼンに関してはポールセットが(スラロームに比較し)、非常に大きな場所を要求することもあり、スキー場によっては制約される場合も多いようです。コーチの方も、おそらく頭の痛い問題ではないでしょうか。そういった中でも、何とかそれ用のバーンを確保できた場合は、是非「捨てポール」を入れたセット(図3)で練習されてはいかがかと思います。
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この捨てポールは図のように通常の旗門の中間に位置し、これをうまく抜けることで、ゆっくりと大きく曲がるターンをマスターすることができるのです。捨てポールを使わない場合(図4)は、どうしてもふくらみのない直線的な入り方になりがちです。そしてそのようなターンは、視界的にも図5のようにポールの下 (通過した後)でエッヂングのための雪煙が上がります。これが捨てポールを使ったセッティングで滑らすと図6のようにポールの真横で雪煙が上がるのです。
この状態は先のザールバッハ世界選手権などで皆さんが見たトップレーサーのターンと同様のタイミングになっています。つまり、子供たちはこのトレーニングによって理想的なリーゼンのラインとりを習得しているということです。
大きく曲がる技術を小さいころからしっかりと学ぶというのはとても重要なことなのです。また、一つの興味深い傾向として、この捨てポールを使った大きく曲がるセットは、とくに女子選手が苦手にする傾向があります。
その辺の細かい理由についてはまた違う機会で触れてみることにしましょう。

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第12話 親御さんをどう’扱うか’

⑫ 親御さんをどう’扱うか’

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今回も一「親御さん」へのお願いについて述べてみたいと思います。ジュニアコーチたちの一番の悩みは、子供たちへの指導ということよりも、親御さんをどう"扱うか"ということにあると思います。

中学生や高校生になると、ほとんどが自分自身の考えを持つようになり、親御さんもそれほど自分の子供への指導について口出しをしないのですが、小学生のときは子供たちも指導する側も非常に親御さんの考えに左右されやすいのです。親というのは、自分の子どもだけしか見ない傾向があります。悪くいえば、他人の子供はどうでもいいという感じです。

たとえば、コーチが子供に「こういうことをやりなさい」と教えているのを見ていて、家に帰ってから、「どうも今日のコーチがやった、あの指導はおかしい」といって、「あれはこうやらなければいけない」と子供に別のことを教えてしまうのです。これで一番困るのは子供たちです。コーチのいうことを聞くのか、親のいうことを聞くのか、子供たちがスキーに関して一番信頼しているのはコーチなのですが、やっぱり子供にとっては親のほうが大事ですから、結局は親のいうことを聞いてしまいます。そして親のいったとおりに行なうと、今度はコーチに直される。これでは、本当に子供たちは迷ってしまいます。
子供たち自身の考えが、まとまらなくなるうえにスキーに対する気持ちが萎えてしまいます。親御さんもある程度コーチに対して不信感を持っているからこそ、子供にそういった発言をしてしまうのでしょうが、決していい結果を生むことはありません。
この場合、親御さんにとってもらいたい態度としては、もし、自分の子供が所属しているジュニアチームのコーチに不信感を持ったら、それを子供にいわないで、直接コーチに質問して欲しいのです。そして、コーチの説明に親御さんが納得いかなかったら、速やかにそのジュニアチームを辞めた方がいいと思います。そのままにしておくのは子供のためにもよくありません。

子供の指導というのは、前にも述べたことがありましたが、コーチは子供を10年周期で考えて見ています。そして、それをお互いが承認しているという信頼関係の中で、子供を教えているのです。だから、もしその信頼関係が成り立たないのなら、チームを辞めるべきだと思うのです。いま述べたことは、不信感を持ったらチームを変えなさいという意味では決してありません。子供をジュニアチームに預けた場合には、そのコーチや指導法に信頼を持って欲しいのです。そして、その信頼を持てないのなら、いっそのこと、そのチームを辞めて欲しいということです。

また、もうひとつ費用の間題があります。スキーはやはり相当のお金がかかるスポーツです。しかし、そのお金がかかることを子供にいってもらいたくないのです。「お金がかかっているからこうしろ」とか、これだけお金がかかっているのにとか、親御さんが子供にそういっている光景をよく見かけますが、こういうことをあまり子供に押しつけると、子供が高学年になったときに、その反動が悪い形で返ってくるものなのです。だから、あまり小学生のときには費用のことはいわないほうがいいのです。
もし、実際に費用がかかり過ぎるのでしたら、かからないように工夫して欲しいのです。なにも新品のスキー用品を揃えなければならないということではないのですから、子供の体格に合ったもので、どなたかのお下がりを使うようにすればいいのです。スキー板にしても、絶対に新しいものを使用しなければいけないいうことはありません。
最近では、小学生(低学年)のうちから練習用と試合用とに分けてスキーを持っている子供までいます。中には回転用だけでも2本も持ち歩いているのです。それもトップクラスの選手が使うような最高級品です。私は普通のスキーでスラロームも大回転も滑らせています。小さいうちは、それで十分です。確かにスキー板がよければそれにこしたことはありません。しかし、あまり低学年のうちから、用具に対して親御さんが過敏になると、大会での勝ち負けの結果に対してこだわりを持ってしまい、子供が大きくなって、スキーが本当の意味でわかるようになったときに、そのプレッシャーに負けてしまうことさえあります。

さらに、小さいときから親御さんが完全にコントロールした中で過保護に育っていくと、大きな壁にぶつかりやすく、しかもその壁を乗り越えることができません。壁というものは、中学生、高校生になっていくと、必ず何回もぶつかるものです。それを早くクリアできるか、できないかによっても、その子供が大選手になれるか、あるいはなれないかということにつながります。あまり恵まれたとはいえない用具を使っていても、子供は、中学生になったときグングンカをつけ、伸びてくるものです。したがって、あまり小さいときに、たくさんいい用具を与えるということはしないで、親御さんができる範囲内で用具を揃えるようにして欲しいです。

子供が成長すれば、どうしても用具も身体に合わなくなるものです。使わなくなったものは所属するジュニアチームにどしどし提供し、ほかの子供たちに貸し与えるような気持ちを持って欲しいと思います。

それから、大会という問題があります、近年はどの地域でもそうだと思いますが、毎週日曜日ごとに何らかの大会が行なわれています。今年の例でも、ある日曜日には2つも3つも大会が重なっていました。そして、最近では親御さんの方が賞品のいい大会を狙って、子供を出場させるという事態にもなっています。ですが、これは一概に悪いということではなく、同じような大会なら、賞品のいいほうを選ぶのは当然のことでしょう。

近年、ジュニアの大会が毎日曜日ごとに必ずどこかのスキー場で行なわれていますが、子供たちがもし毎週大会に出場していたら、目先の勝負のことばかり考え、肝心の練習そのものがおろそかになってしまいます。子供たちは大会のことがいつも頭にあり、その結果常にポールトレーニングばかりをやりたがるし、また親御さんも大会に勝たせたい一心から、同様にポールトレーニングを要求してくる傾向があります。そうなると、将来的に見たトレーニングができなくなるのです。コーチというのは、その次の大会のために子供たちを練習させているのではないのです。

やはり、中学校、高校に進んだときの子供の技術向上をめざして、長い目で見て指導していると思います。いまの時点では必要ではないかもしれないけれども、将未には必要になることだから、一生懸命教えるというやり方です。それを、親御さんが理解しない場合が間々あるのです。

たとえば、いまはフリー滑走の練習が必要だ、基礎トレーニングが必要だということで、ポールを全く立てないで、子供たちを練習させていると、その子供たちが大会に出場しても成績が全然ダメだったときに、あそこのジュニアチームではダメだという評価を親御さんが下してしまうのです。そうではなく、あえてその時期にそういう指導をしているチームほど、子供たちを長い目で見て育てている、本当にいいチームなのです。ここのところは親御さんが我慢しなければならない間題であり、コーチもまた同様なのです。

目先の大会出場に目を向けるのではなく、長い目で見守って欲しいのです。そして、親御さんはシーズン何回ぐらい大会に出場させたらよいのかどうかも、よくコーチに相談して、その考えを聞きアドバイスを受け、そこで理解して欲しいのです。

どの世界でもいえることですが、隣の芝生は良く見えるものなのです。「あそこのチームはウチのチームと違う指導をしている。だから、あそこのチームはいいのだ」などと、よそのチームと比較して欲しくないのです。どのコーチも、そのチームに合った指導方針で、子供たちを長い目で見て育てているはずです。子供がスキーを続けたいのに、親御さんが勉強させたいと子供の気持ちを察することなくスキーを取り上げたとき、結局は勉強も余りしないものです。それよりも好きなスキーを子供自身が続けたいのであれば、私はできる限りの時間スキーを続けさせた方が、将来的にはいい結果につながると思います。

まず、小さいときは、あまり勝負にこだわらず、大きく子供を育てようと考えて、親御さん自身も進んで合宿に参加したりして、スキーに関しての見聞を広めてください。そうすれば、いままでとは違ったスキーに対する概念を持つことができ、コーチたちに対する信頼感を得られることと思います。

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第13話 「最新の技術」説明には飛びついて欲しくない

⑬ 「最新の技術」説明には飛びついて欲しくない

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いま、スキーの専門誌や解説書などでは、最新のスキー技術、トップレーサーの滑りの連続写真、ポールのセッティングなどについて、多種多様にくわしく解説してあります。また、近年では各地のスキースクールや講習会などに外国の著名なコーチ、選手たちが来日することも珍しくなく、ミーテイングなどの際には非常に有効な指導方法や技術を知ることができます。

ただ、色々な情報が簡単に得られるという、この状況自体はとても素晴らしいことなのですが、とくにジュニアのコーチの方々が頭に置いておくべきことは、その最新の技術を自分たちが十分理解しないうちに子供たちに教えてしまってはいけないということです。

もし講習会などで新しい技術説明を聞いた場合、どんな小さなことでも疑問を感じたらすぐその場で質問して、よく理解することが必要です。また、雑誌や解説書の場合は、その場で質問というわけにはいきませんから十分に時間をかけて読んでみて、しっかりとその方法を理解した上で子供たちへの指導に採用、あるいは応用していただきたいと思います。
もちろん、その技術が本当にジュニアの子供たちに必要なものであるかを見極めることはさらに重要です。

つまり、これまで何回となく触れたことですが、ジュニアの子供たちというのは、長い目で見守ってあげる必要があるのです。それには、基礎的なトレーニングを徹底的に行うことがいちばん大切だと思います。

たとえば全日本のトップクラスの選手になれば、それらの最新の技術を分析し、次々と採用していくことも心要でしょうが、ジュニアの子供たちに、それらの技術を覚えさせたり、あるいはマネさせたりするのは、大きな危険を伴うことであると思います。

最新の技術、新しい指導方法というものに対しては、コーチも選手も、また周囲の人も非常に飛びつきやすいものです。「こういう技術を使えば速くなる」、そう書かれたり、言われたりする技術は確かに魅力的です。おそらくトップクラスの選手が使えば効果的で速い技術でしょう。

しかし問題は、そのトップ選手がジュニアのときにどのような技術を学んでいたかということではないでしょうか。

ジュニアのとき基礎トレーニングをしっかりと行ない、基本を身につけていたからこそ、成長した現在、最新の技術を使いこなせているのだと思います。昨シーズン、各地のジュニアチームの雪上トレーニングを見る機会がありましたが、実戦的なポールを立てる練習中心に指導しているチームが非常に多かったようです。が、ポールを立ててのトレーニングでは、必然的に"ポールの技術"を中心に教えてしまうことになります。ジュニアのトレーニングでは、まだそれほど高度な技術は不必要です。それよりも、しっかりと基礎トレーニングを教えてほしいと思うのです。

さらに基本的なことを言うなら、雪上トレーニングのときは、リフトを使ってどんどん滑る事も大事ではありますが、もし時間が許す事がありましたら、スキーで登る事も大事なのです。とくに、スキーをはいて歩くことにより「角付け」を自然に身体で党えていくこともできるのです。

フリースキーにも様々なフリースキーがありますが、スキー場が協力していただけるところがありましたら、コース状に雪を、斜面に三角状に盛り上げ、また様々なポールセットを行うトレーニング、アジリティ・モジリティ、などを年に一回以上は行うようにジュニアのコーチの方は目を向けてほしいのです。ただ、技術、技術といったことばかりに走ると、子供たちは壁に突き当たったとき、立ち直ることができないケースが起きる場合もあります。

長い目で子供を見守る最初の話に戻りますが、ジュニアのコーチの方がいろいろな専門誌や、解説書を読んで最新の技術、トレーニング方法を学ことはよいことですが、それをそのまま受け入れるのではなく、それがなぜいいものなのか、どういう点がいいのかなどといった点を見極めてほしいのです。

また、子供たちや、その家族の人が最新の技術、トレーニング雑誌などで読み、知っている場合もあります。「なぜ、最新の技術を教えないのだ」と質問されるケースもあるでしよう。そのとき、ジュニアのコーチは、いま子供たちに必要なのは,最新の技術ではなく、基礎トレーニングなのだと胸を張って答えていただきたいと思います。

コーチの仕事は大変な重労働ですから、しっかりと技術勉強といっても、なかなか時間が取れないと思いますが、一つ一つの積み重ねを大切にがんばってください。おそらく、ほとんどのコーチの方は、過去において大会に出場した元アルペン選手だと思いますが、なかには大会出場の経験がないと言う方もいるでしよう。しかしジュニアの指導者としては経駿者も未経験者も同じ条件なのです。

要は子僕たちのことを常に考え、温く接することができるかどうかです。そして、子供たちを長い目で見守り、たとえば5歳から10歳までの期間はなにをどう教えるべきかということを考えていけば、おそらく最新の技術にすぐ飛びつき、子供たちに教えるということは出できないでしよう。ジュニアのコーチの方は、目先の結果を求めてあせることなく、何年か先にいい結果がでるような形で、しっかりと子供たちを教え続けて欲しいと強く思います。

子供たちの進路に関してですが、もしチームの子供の家族から進路について助言を求められたら、指導者の方は決して"逃げ"の態度に出てはいけません。

その子供のスキー選手としての可能性は、小学校の高学年くらいになれば大体分かるはずです。ときには厳しい意見を言うことになるかもしれませんが中途半端なより、ずっと子供のためになると思います。たとえば「高校進学」には、公立高校と私立高校のコースがあります。スキーの技術がトップレベルに達していなくて、学力がある子供の場合は、公立高校に進ませることがベストだと思います。

なぜなら、インターハイの場合は、1校あたりの選手の枠が決まっています。部員の数が少ない公立高校ならば、トップレベルに達していなくても大会に出場するチャンスが高くなります。出場できなければ、とにかく"やるだけやる"ためのチャンスも得られないわけです。

逆にトップレベルに達している子供には、是非スキーの盛んな私立高校に進ませてあげたいです。しかし、あくまでもその子供の実力、技術を考えて、家族の人にアドバイスするまでが指導者の役割です。決して押しつけてはいけません。最終的に進路を決めるのは家族と本人だからです。

そしてジュニアコーチの方は、進学する子供を自分の子だと思い、親身になって考え、的確にアドバイスしてください。それもコーチの務めなのです。そして、高校に進んだあとも、高校の先生とはコンタクトをとり、機会があったら、チームに高校生を呼んで交歓会を開くなど、長い目で見守ってほしいと思います。

「大学進学」も、国公立と私立のコースがあります。国公立を目指すのであれば、高校生になったら、スッバリとスキーを離れ、勉強に専念した方がいいと思います。とても入学することは難しいですから、きちんと勉強することが必要です。勉強が大事か、スキーが大事かといった点を考えると、学歴社会とはいえ5歳のときから18歳まで13年間もスキー一筋に進んできた子供は、なにかをきちんとつかんでいます。実杜会に出ても、それがきっと役に立つはずです。私は自信を持ってそれは断言できます。逆に、勉強、勉強で進んできた子供は学力優秀でしょうが、それでなにかをつかんできているでしょうか。ジュニアのコーチの方は、子供たちを教えてきたことを誇りに思ってください。

あらゆる条件を克服し、追求する力を子供たちは必ず学び取っていると思います。

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